亡國の孤城Ⅱ ~デイファレト・無人の玉座~
「それなら…」
それなら、僕もここに残る。
…そう言おうとしたレトの鼻先に、ビュンッと空を切る巨大な鎚の先が、突き付けられた。
悲しげな表情で口を閉じたレトを、有無を言わさぬドールの眼光が容赦無く貫いた。
「……あんたは、違うでしょう。…あんたは、そこの偉そうな王子様を守ることだけ考えていればいいの!余計な争いなんかしなくていいの!…………守りたいんでしょう?………違うの?…違わないでしょう!」
あんたは、あんたの守るべきものを守っていればいい。
誰もかれも守りたい、救いたいなんて…我が儘を言うんじゃない。
…言うんじゃない。
ドールはそのまま、レトとユノから数歩離れた。ピクリとも動かぬ突き付けられた鎚からは、彼女の強い決意の様なものを感じた。
「………ドール…」
激しい闘志を纏う彼女に対しかけるべき言葉が見付からず、レトはドールを見詰めていた。
…だがその直後、レトの後ろから始終無言だったユノが顔を出し、しかめっ面のままレトの前に出て来た。
ドールを前に腕を組み、何故か深い溜め息を吐き……キッ、と彼女を睨み付けた。
「…それなら尚更…僕はここにいるからね」
「…何、言って…!」
「勝手に決められるのは嫌いなんだよ」
欝陶しいとでも言うかの様にドールの鎚を押しやり、綺麗な顔を歪めてフンッと鼻息荒くユノは口を開いた。
「どうせ狙われているのは僕で、何処にいたって追い掛けられるのは僕なんだ。君の言う通り、結果は同じなんだろう?……だったら、僕もここにいる。それに暴れ馬の君を独りにしておくと危ないからね」
…言い出したら聞かないユノのことだ。こちらが強行手段に入らない限り、彼はここに居続けるだろう。背後にいるレトも、賛成とばかりに微笑を浮かべている。
…面倒臭い連中…。
「………暴れ馬で、悪かったわね…」