亡國の孤城Ⅱ ~デイファレト・無人の玉座~
男尊女卑が基盤の祖国とは違って女性には優しい、この国の変わった国風は未だに馴染めない。
…自分を一人にはさせまいとする彼等二人の気遣いは照れ臭くもあり、少々理解出来ないドール。
我が儘王子様には、逆らえない気がするな…という半ば諦めの様なものがドールの苛立ちを緩和し、溜め息を吐かせた。
暴れ馬、は認めないが。
「…調子、狂うわね…。…だけどどうするつもり?王子様はさておき………いくら戦闘に長けた狩人のあんたでも、あの猛獣男には敵わないわよ…あたしと組んでもね」
ドールは刺し違えてでもゼオスを倒すつもりだったが、それ以前にそこまでいけるのだろうか。
…たとえ二人掛かりでも、所詮自分達は子供。…勝てる気がしない。
ノアが加われば話は別だが、生憎今は極めて強力な魔術を発動中で、もっと厄介なものを相手にしている。…それどころではないだろう。
上空の魔法陣が、黒い光を放ちながらゆっくりと回転し始めた。
広大な城を包む空間がはっきりと目に見える程歪み、そこら中にオーロラの如き光が浮かび上がる。
…空気が、重い。
…呼吸がし辛い。吐き気がする。
降り続く吹雪の向こうに見えるゼオスの動きが、少し鈍くなった様に見えた。
だが、剣を握る腕の動きは止まない。
既に門の半分がへし曲がり、今にも鍵が打ち砕かれそうな勢いだ。
…来る。
いつでも来い…と戦闘体勢に入るドールと、ユノを後ろに付かせるレト。
ニメートル強の大きさに変化させた弓を握り締め、レトは無言で、曖昧なゼオスのシルエットを見詰めた。
一回、また一回…振り下ろされるゼオスの剣の鈍い光と、甲高い衝撃音が飛び交う。
その鉄の光沢がまた頭上に上がり、振りかざされ、再度それが門に落ちるか………と思われた、その直後だった。