亡國の孤城Ⅱ ~デイファレト・無人の玉座~
―――突然、ゼオスの剣が視界から消えた。
何度目か分からないゼオスの狂った破壊行動は、再び門に凄まじい打撃を与える筈だった。
…予想外の事態に一瞬呆気に取られたレト達だったが、それから一秒足らずの内に、吹雪の向こうから甲高い音が二度、三度、連続して鳴り響いた。
今までの打撃音とは違う、質の違う音色だが……レトとドールにとっては、聞き慣れたものだった。
…これは、刃と刃が、交じり合う音だ。
斬り合っている、殺伐した無機質な音だ。
…ゼオスが、何者かと対峙している?
「…何?………あっちで、何が起きているのよ……チッ…雪で見えない…!」
訳が分からない、と苛立つドールの隣で、レトは吹雪で霞む視界の奥に何度も目を瞬かせた。
表に晒しては直ぐに乾いてしまう眼球を酷使し、白のキャンパスの中で動く輪郭を懸命に捉える。
全く見えない訳ではなかった。
微かだが、何かが動いているのが見える。
…近付いては離れる二つの人影に、朱色の明るい火花。
片方はゼオスに違いないが、もう一方は誰なのだろうか。
動きは極めて俊敏。ゼオスと同じくらい大柄にも見える。
一瞬、ゼオスの物ではない方の剣が見えた。
その鈍い光沢をレトは瞳に捉えた途端…大きく目を見開いた。
翻る純白のマント。
聞こえる筈が無いのに、何故だか聞こえてくる…覚えのある息遣い。
雪の中で佇む、その、背中。
薄く開いたレトの唇が、弱々しい声を呟いた。
「―――…父さんっ…」