亡國の孤城Ⅱ ~デイファレト・無人の玉座~


神官は今、国内の何処ぞの風景を千里眼を透して見ている。
…だが……それがどの位置でどれほど離れているのかは分かるのだが、何を見ているのかが分からなかった。



暗い場所。



空気の通りはあるが、風が無い。



外の吹雪に晒されていない。



では、屋内か。洞穴か。



……いや、何処かの内部には違いないが…洞穴のひんやりとした冷気はそこには無く、むしろ温かさがある。

どこか懐かしい、温かみが。











暗闇の中で蠢く、幾つもの輪郭。蔓延るそれらはまるで枝や根の様で……………いや、これは樹木だ。…木だ。………これは…多くの木々が作り出している、自然の通路だ…。


樹木のトンネルは、今こうやって見ている最中でも形成されている。
固く節くれだった裸の枝と根っこが絡み合いながら、一本の細長い通路を作っているのだ。





こんな光景は、生まれて初めて目にした。

しかし、何故?

死んだ筈の木々が、何故こうも、今…。











何のために…。














本の一瞬だけ、神官は我が目を労り、瞼を閉じた。
闇に遮られた瞳を再び表に晒したと同時に………神官の千里眼は。


















………闇の中を歩む、一人のシルエットを捉えた。














「………………長老…」




蓄えた長い白髭に指を通して撫で下ろす。
普段は開くこともあまり無い乾いた唇で、喉の奥から低い笑みを漏らせば、訝しげな声で返事を返された。

もう何十年も仕えてきた、主の低い声だ。
















「―――…どうした…」

「…珍しいことに………貴方に客人が参っている様だ。……フフッ…探ってみれば、既にもう…近くにまで来ている様だが…?」
< 1,190 / 1,521 >

この作品をシェア

pagetop