亡國の孤城Ⅱ ~デイファレト・無人の玉座~
神官は今、国内の何処ぞの風景を千里眼を透して見ている。
…だが……それがどの位置でどれほど離れているのかは分かるのだが、何を見ているのかが分からなかった。
暗い場所。
空気の通りはあるが、風が無い。
外の吹雪に晒されていない。
では、屋内か。洞穴か。
……いや、何処かの内部には違いないが…洞穴のひんやりとした冷気はそこには無く、むしろ温かさがある。
どこか懐かしい、温かみが。
暗闇の中で蠢く、幾つもの輪郭。蔓延るそれらはまるで枝や根の様で……………いや、これは樹木だ。…木だ。………これは…多くの木々が作り出している、自然の通路だ…。
樹木のトンネルは、今こうやって見ている最中でも形成されている。
固く節くれだった裸の枝と根っこが絡み合いながら、一本の細長い通路を作っているのだ。
こんな光景は、生まれて初めて目にした。
しかし、何故?
死んだ筈の木々が、何故こうも、今…。
何のために…。
本の一瞬だけ、神官は我が目を労り、瞼を閉じた。
闇に遮られた瞳を再び表に晒したと同時に………神官の千里眼は。
………闇の中を歩む、一人のシルエットを捉えた。
「………………長老…」
蓄えた長い白髭に指を通して撫で下ろす。
普段は開くこともあまり無い乾いた唇で、喉の奥から低い笑みを漏らせば、訝しげな声で返事を返された。
もう何十年も仕えてきた、主の低い声だ。
「―――…どうした…」
「…珍しいことに………貴方に客人が参っている様だ。……フフッ…探ってみれば、既にもう…近くにまで来ている様だが…?」