亡國の孤城Ⅱ ~デイファレト・無人の玉座~
…客人、と言うや否や、辺りに漂う空気は主のあからさまな嫌悪感を孕んだ。
『客人』というその呼び方からして、同胞ではないことは確かである。やって来ている人間は異端者、と長老は直ぐさま理解した。
よそ者は、嫌いだ。憎悪すら感じる。
街の民にですら嫌悪を抱くというのに、それが異端者となると長老の機嫌は最悪だ。
呻きに似た低い吐息に混じり、不機嫌そうな掠れた声が、二人だけしかいないこの暗い空間に反響する。
「………堂々とまぁ…何処の客人かは知らんが……いけ好かぬ。…会うつもりはない………神官、アルテミスを遠ざけろ…」
「………そうしたいのは山々だが…残念ながら、無理な話さ。……そのアルテミスが客人を導いているのだからな」
「………何だと…?」
意地悪く笑う神官の何とも理解しがたい言葉に、長老は静かに眉をひそめた。
長老と一心同体と言ってもいい、三大世界樹の一つである神木アルテミスは、普通の樹木と違い自我を持っている。
他国の荒々しい気質を持った世界樹と違い、この純白の美しいアルテミスは争いを好まない優しい性格の木である。
それ故に、アルテミスは狩人以外の人間とは極力接触を避けようとするのだが…そのアルテミス自らが、異端者を招いているなど…異例も異例。有り得ない話なのだ。
「………煩わしいわ…」
「如何する?」
「………捨て置け。…場合によっては…………射殺せ」
「…そうかい」
…物騒な答えしか返ってこないことは、分かっていたけれど。
乱暴な物言いや真似は嫌いだ。出来れば穏便に事を済ませたいと願いながら、神官は外へと向かった。
見た目は普通の巨木だが、入れば不思議と広い空間が広がっている、神木アルテミスの幹の穴から抜け出すと、外は日暮れ前の薄明かりに塗れていた。