亡國の孤城Ⅱ ~デイファレト・無人の玉座~
「―――下らぬ世迷言はたくさんだ」
低い呻きが、聞こえた。
地が、唸り声を上げた。
突如鳴り響いた地響きは、激しい吹雪の歌を掻き消し、しばしの無音を生み。
重苦しい空気を、孕んだ。
周囲の空気は既に張り詰めていたが、それに輪をかけるように、更に緊張の糸は張りつめ、限界を超えた。
酷く、息苦しい。竦みそうになる足に反して、身体は蛇に睨まれた蛙の様にまるで動かない。弓に番えていたどの狩人の矢尻も、突如として現れたその凄まじい威圧感に圧倒され、カチカチと小刻みに震えている。
そんな中で、微笑を浮かべた神官は………いつの間にか己の背後に影を作っていた、その声の主に振り返った。
―――…白い、大木。
…そう。まるで大木の様な、狩人の白いマントを身に纏った巨漢が…そこにはいた。
節くれだった大きな手には、その身の丈を軽く越える程の、巨大な片刃の剣。
鞘の無いそれは、この薄暗い中でも怪しげ且つ鋭利な輝きを放っていた。
だが、何よりもまず目を引き恐怖さえも覚えさせていたのは……フードから覗く、静かな烈火を宿した巨漢の獣の如き瞳だった。
…人間以下の獣同然、と蔑まれる狩人の、その頂点に立つ王。………百獣の王、と言う言葉は差別にも思えるが………この男に称号を贈るとするならば、これ以外には有り得ない、と思う。
一目で、それは分かる。
―――…長老だ。
これが、狩人の王。
デイファレトの国王とは別の、もう一人の王。
裏の世界に君臨する者。
この男以外に、誰がいるだろうか。