亡國の孤城Ⅱ ~デイファレト・無人の玉座~
フードから所々覗く、灰色の髪と同色の無精髭が縁取った長老の重々しい口が、小さな隙間を作る。
白い吐息に混じり、空気を震わせるその低い低い声が放たれた。
「―――…高見の見物を好む貴様等が…外に出て来るとは…………どういう風の、吹き回しだ…………フェンネルめが…」
「………今は、違います…長老殿。………どうも、初めまして…聞こえていらっしゃったかと思いますが…私はフェンネルから参った、使者…」
「嘗めておるのか、小娘」
重苦しい威圧感を孕ませた長老の一言が、続く筈だった言葉の流れを断った。
…見たもの全てを射殺しても不思議ではない長老の眼光が、なびく金髪の下の、澄んだスカイブルーで止まった。
…見詰め返してくる青い空の色の眼差しは、一向に怯む様子など無い。
「……何が、使者だ。…………隠し通せるとでも思うたのか………フェンネル王。………貴様等王族特有の、その吐き気のする魔力の匂いは………ごまかせぬぞ…」
「………………何だ。…お見通し、という訳か。………………いかにも、私はフェンネル王…54世。…名を、ローアンと申します…」
……険しさを増す百獣の王の睨みに、ローアンは不敵な笑みを返した。
神官や周りの狩人達は、この異端者の小娘が一国の頂点に立つ王であると聞き、目を丸くしたり泳がせたりと皆それぞれ動揺を隠しきれないでいた。
…他国の事など微塵も関心は無いが、いざ国王を前にすると話は別である。しかもそれが女の王で、まだまだ若くて、護衛もつけずに独りこんな所に佇んでいるのだから……驚くのも無理は無かった。
その存在も、ここに在る事も、違和感でしか無い。