亡國の孤城Ⅱ ~デイファレト・無人の玉座~
威厳高い真っ赤な玉座。
謁見の間をグルリと見下ろすことが出来るその玉座で。
………老王は、震えていた。
……神声塔での祭礼という、数日間に及ぶ長旅。
心身共に疲れ切っていた老王だったが……………この震えは、単なる疲労によるものではない。
………小刻みに震える骨張った指先は、自然と力が抜け…。
……緩んだ指から握っていた杖がスルリと抜け落ちた。
大理石が敷き詰められた広大な広間に、杖が床を叩く甲高い音が鳴り響いた。
……老王は意味も無く、ビクリと大きく震えた。
…その時……珍しく老王以外誰もいない静かな謁見の間に、ケインツェルが入って来た。
……玉座の下で転がる杖を見下ろし、にんまりと笑みを浮かべながら割れ物を扱うかの如く杖を拾い………玉座に続く小さな階段をゆっくりと上って来た。
「………おや?…こんなに震えて………………遂にその老体も言う事を聞かなくなりましたか?」
アハハハハ!、と嫌気がさす笑い声をケインツェルは盛大に響かせた。
………が、老王は何も反論せず、無言でケインツェルから杖を強引にひったくった。
…そして再び、臆病な子供同然の目で、あらぬ方向を見詰めている。
……ケインツェルはそっと背後から近寄り、震える老王の耳元で囁いた。
「―――………恐ろしいのですか?……我がバリアン王…」
「………」
老王は唇を噛み締めたまま、やはり何も答えない。
ケインツェルはニヤニヤしながら銀縁眼鏡をずらした。