亡國の孤城Ⅱ ~デイファレト・無人の玉座~
―――白い世界に、朱色の明るい火の花を見た。
瞬いては、消え。
不定期な間を置いては、また咲き。
あらん限りの力が込められた刃と刃の衝撃は、鈍い音色を奏で、怪しい光を生み。
殺気立った衝動を、辺りに散らす。
心無い者の手によって無造作に散らされた、花片の、様に。
「―――…っ…!」
標的に向かって横薙ぎに払った筈の刃には、何の手応えも無かった。
何も無い虚空を切り裂き、小さな風を起こしただけで終わったが、今は息を吐く間も無い。
白一色の視界の奥からビシビシと伝わってくる強烈な殺気に直ぐさま意識を向ければ………音も無く、それは鋭利な刃に具現化してこちらに飛来してきた。
積雪に埋もれた片足に体重をかけ、身体を捻り、咄嗟に剣を大きく斜め上に振り上げた。
…直後、金属同士がぶつかり合う鈍い音が鼓膜を揺るがせ、伴う衝撃が電流の様に腕全体に走った。
―――…重い。
なんて、力だ。
力任せに相手の剣を弾き返して素早く後方に大きく跳び下がり……骨の髄からビリビリと痺れる腕に目をやりながら、ザイは白く染まった荒い息を吐いた。
草木の一切見当たらない、厚い雪だけが一面を支配する針山地帯。
一度足を踏み入れれば、そこは限られた生命しか生きられない禁断の地。永久に続くのではないかとさえ思えてくる、白い地獄。
威風堂々と立ち並ぶ針山の群衆の中は、方向感覚を鈍らせ、踏み入った者を閉じ込めてしまう魔の森。
城を守る様に周りを囲む、自然の壁だ。
何人たりとも、生きては帰れぬ…と恐れられたその禁断の地を、ザイは縦断したのだった。