亡國の孤城Ⅱ ~デイファレト・無人の玉座~
使命の、ために。
守るべき親子のために。
この冷たい、眠りつづける国のために。
だが何よりも。
我が子に、会うために。
それだけ。それだけを一心に、もはや執念同様に、ザイはここまで来た。
縦断する最中。…息子は、生きている。必ず生きている…と、根拠も何も無いことを、ひたすら自分に言い聞かせていた。
死んだなんて、認めない。絶対に認めない。
あの子は、必ず生きている。
あの子は強いから、きっと生きている。生きて、王子と共に城に向かっている筈だ。
城に行けば、あの子はいる。
城に。
城に行かねば。
約束の月が、昇る前に。
どんなルートで、どうやって城に辿り着いたのか、ほとんど覚えていない。
冷たい吹雪など気にもせず、感覚の無い手足を酷使し、寝る間も惜しみ、疲れ果てたサリッサを背に抱えて。
ただ、ひたすらに。
ひたすらに。
執念に駆られた決意の先を求めて。
無意識で、息子の名を呼びながら。
暇も取らずに動かし続けていた身体は、正直当の昔に疲れきっていて、限界を越えていた。
気が付けば空は暗闇から仄明るい曇り空へと顔を変え、そして再び夜の帳を下ろそうとしていた。
ああ、月が昇る。
月が昇ってしまう。
焦燥感、絶望、苛立ち、といった負の感情が胸中で激しく渦巻いていたザイだったが。
………疲労困憊したサリッサの、弱々しいけれど驚嘆に満ちた声を聞くと共に、指差されたその先を見遣れば………そこには、白い世界にぼんやりと輪郭を浮かばせた、巨大な城の姿があった。