亡國の孤城Ⅱ ~デイファレト・無人の玉座~
「………実に久しい、神声塔での祭礼でしたねぇ?このケインツェル、中々眠れませんでした。………祭礼で現れた、神の御告げ……………神秘的な光景でしたが………創造神アレスの文字は、この複雑な私の頭を駆使しても……一向に読めませんでした。スラスラと読んでしまう王には、尊敬の念を抱きましたよ!…おっと…初めてではありませんよ?」
…アッハッハッ!!………。
………いつもなら癇に障る側近の笑い声も、その存在も……今は、どうでもいい。
どうでもいい。
この激しい不安の前ではどんな物も………味方してくれやしないのだから。
「…………あの御告げはきっと、三大国共通のもの。フェンネルもデイファレトも同じ文章に違いない。……御告げ通りに事が動くとすれば……………………デイファレトは……………………………………王を迎えなければならないですね………何しろ神の命令ですから…」
「………」
ブルリ、と老王は肩を震わせた。
強張る皺だらけの顔には、もう血の気が無い。
「………………つまり……あの御告げを逆にして考えてみれば……………………………………デイファレトの王族は、間違いなく………あの深い雪の中の何処かで………………………息を潜めている……………我々に隠れて…ね…」
耳元で囁くケインツェルの声は、まるでいつまでも耳に残る心地良い音色で。……言葉は、得体の知れない呪文だった。
「………………行方不明の王族は必ず……………御告げの期日までに行動を起こすでしょう。…………………………神が与えてくれたチャンスですからね…」