亡國の孤城Ⅱ ~デイファレト・無人の玉座~
……ケインツェルの言葉をいちいち受け止める老いた耳は、拒む事無く聞き耳を立てる。
………揺れる老王の瞳は、何を映しているのか。
……何を思い浮かべているのか。
「―――………バリアン王よ。………………貴方様に、貴方様の先祖に戦火を撒かれ、惨めに生き延びてきた王族は………今この時、栄華を取り戻そうと……最終的に向かう場所は…………………………ただ、一つ……………………氷の孤城、でしょう…?」
「―――………氷の………………孤城……………城………………」
震える老王の唇が、微かに動いた。
………氷の孤城。
………城。
………その言葉を耳にした途端、老王はゆっくりと、顔を上げた。
杖を握る血管の浮いた細い手に、静かに…力が込もった。
「………………………………あの…城が………………………………………城が…開け……ば……………………………………では………ないか…」
………ボソボソと呟かれるしわがれた言葉は途切れ途切れで、傍らのケインツェルにも聞き取れない。
ケインツェルは笑みを浮かべ、小首を傾げた。
「………………バリアン王………?」
「………………ならぬ…ならぬ……………ならぬ………………ならぬぞ……………………ならぬぞ!…」
………老王の絞り出した声と共に、カタカタと震え出す玉座。
…老王を中心に、辺りが急に…熱気に包まれた。
揺らぐ空気が微かに赤みを帯びて……まるで炎の様に揺らめいている。