亡國の孤城Ⅱ ~デイファレト・無人の玉座~
階下での騒動など露程も知らない…夜更けも近い夜の深い闇の中。
幾つもの松明で囲んだその空間は、まるで昼間の如き明るさを外に溢れさせていたが…今夜だけは、それも頼りなく思えて仕方なかった。
松明を握る兵士が厳重に警戒する謁見の間の奥…威厳高い真っ赤な玉座で、老王は独り顔をしかめた。
外界が見渡せる壁の吹き抜けを見遣れば、その向こうには漆黒の世界で孤立する小さな炎の塊が一つ。賊とその討伐で送り込んだ兵士達との、乱闘による炎。
あの真っ赤な明かりに埋もれているのは、愚かな賊共…主を失った赤槍達の屍なのだろう。
…つい先程、密偵から戦況報告が届いていた。戦況は当たり前の様にバリアン国家側が圧倒的に優勢。赤槍側は総員共々逃亡の意思は持ち合わせていないらしく、このままいけばあと一刻程で赤槍の全滅は必至であるという。
…ただの阿呆の集まりか、と老王は鼻で笑った。
他人を怒らせる事に関しては天才的なケインツェルに指揮をとらせてみれば、なんて事は無い……あっさりと罠にはまり、誘われるままに敵は表に出て来た。
白槍と黒槍も同時に叩くことが出来ないのは残念だが、一つ勢力を削る事が出来ただけでも今は充分である。
残りの勢力も、またケインツェルお得意の心理戦でじわじわと追い詰めていけばいいのだから。
今回の戦は小さいが、まあまあの出来だろう…と老王は思いながら、肘掛けに頬杖を突き、けだるそうに息を吐いた。
…今夜はあの雪国の、神が定めた王政復古を叶える日である。あちらでの王族暗殺の件は今現在どれほど進んでいるのだろうか。
ほとんどを軍部に任せていたため、雪国での近況を老王は知らない。
大臣を呼んで報告させようかと思案し、老王は近くに立つ兵士に声をかけようと口を開いた。
………だが、その途端。
―――ガタンッ…と、謁見の間の重苦しい扉の片方が、勢いよく口を開いた。
無礼者!陛下の御前だぞ!…と口々に叱咤する兵士らだったが、次の瞬間には全員が息をのんでいた。