亡國の孤城Ⅱ ~デイファレト・無人の玉座~
「……何じゃ…何がどうなっておる!!…誰か…誰でもいい!王子二人をわしの元に連れて参れ!!直ぐじゃ!!直ぐに…」
老王の叫び声にも聞こえる命令が、謁見の間に響き渡るのとほぼ同時に……。
命令を聞く筈の兵士達が、迅速に行動するどころか………何の前触れも無く、その場で次々に倒れたのだ。
それは、本の一瞬の出来事だった。
次に老王が瞬きをした時には、謁見の間にいた兵士の全てが剣や槍を投げ出して床に伏していた。
豹変したその目前に広がる光景は、老王の震えをより一層激しくさせるには充分で………開いた口が塞がらないまま、半分浮かしていた腰を力無く玉座に下ろした。
…ピクリとも動かない兵士達。気が付けば、部屋の外から聞こえていた騒音もいつの間にやら無くなり、内外共々不気味な程静かな有様だった。
焦りや不安からくる恐怖から荒くなる己の呼吸音だけが、やけに耳に入って来る。
茫然と…ただ茫然とする中で。
…不意に、謁見の間の扉が鈍い音色を奏でた。
ビクリと大袈裟に肩を震わせて扉に視線を移したその先には……こちらに歩み寄ってくる二つの影。
カツカツと靴底が床を鳴らす軽快で単調な音が大きくなるにつれ……その姿をぼやけた老眼は明確に捉えていく。
…その二つのシルエットが数歩離れた先にまで来た時、それが誰なのか理解した老王は………しわだらけの顔の窪んだ目を大きく見開いた。
美しい緑の髪のお供…異形の付き人を後ろに連れたその人物は、静かに微笑を浮かべた。
見慣れたその顔。
当たり前だ。何故なら、彼は。
彼は、自分のよく知る…。
「―――…………………リイザ………?」