亡國の孤城Ⅱ ~デイファレト・無人の玉座~
痛い、と…思わず手を引っ込めてから、数秒間。
―――…何だろうか。
自分でも驚く程に冷静で、落ち着き払った頭の中を駆け巡るのは………そんな漠然とした、形の見えない疑問だった。
―――“何だろうか”
本当に、何なのだろうか。
たった今、目の前で、何が起こったのだろうか。
…訳が分からない。
気味が悪い。
気持ち悪い。
不愉快、だ。
冷気と無音が取り巻く世界。
何も無い、何者の邪魔も無いこの空間で。
浮上するだけ浮上したたった一つの疑問は、酷く滑稽で、孤立していて。
そこに答えは、見出だせず。
心境はまさに、迷い子のそれと同じで。
…理解出来ない事が、堪らなくて。
だから。
だから、何なのだろうか。
何故なのだろうか。
何故。
何で。
「―――………何で…?」
自分は、間違えていないのだ。
少しも。
それなのに。
与えられる筈の“居場所”に伸ばした己の手が、目に見えぬ何かによって、一本の真っ赤な線を刻まれて帰ってきたのをぼんやりと見下ろしながら……ユノは、呟いた。
白い手の甲に走る赤い線からは、じわりと深紅色が滲みだし……真珠程の小さな珠となって、指先から、静かに落下した。
冷たい大理石の床に孤立する小さな赤を、ユノは大きく見開いた瞳で凝視していた。
じわり…と。
浅く裂けた皮膚が、鈍い痛みと赤みを宿していく。