亡國の孤城Ⅱ ~デイファレト・無人の玉座~
(―――…?)
奇妙な光景を、ドールの目が捉えた。
それはじっと見ていなければ気付かない程、静かで、ゆっくりとしていて……本当に僅かな、変化で。
……真っ直ぐ伸びた…月明かりが。
―――…月明かりが、揺らめいている。
ゆらゆらと。
青白い薄明かりは微かに揺れて。
そしてそれは、真下の玉座から、そっと移動し。
佇むユノの頭上を照らして。
彼の足元を通り過ぎ、ゆっくりと、ただゆっくりと……短い階段を下りて。
「………ねぇ、ユノ………きっと嘘だよ……………ユノ………」
いくら声をかけても暗い影を落としたまま黙り込む友の姿を、見ていられない。
こんなに近くにいるのに、自らを孤立させようとしているユノは、目に見えない距離を広げている。
……独りで行かないで、と心中で叫びながら、レトはまた一歩彼の背中に近付いた。
ただ、声を聞きたくて。振り返ってほしくて。
本のニ、三歩の…僅かな距離。
互いを隔てるものは何も無い。
お互いに手を伸ばせば届く、そんなもどかしい距離。
この極寒の空気のせいなのか、妙に冷え切ったその間を埋めたくて、レトはそっと手を伸ばした。
薄暗がりの中。
視線の先。
やや目線を高くした短い階段の上に立つ、ユノ。
彼の姿を見上げる紺色の瞳。
友に降り注ぐ天からの淡い月明かりだけが、この空間での唯一の光源。
その神々しい青白い明かりを求めるかの様に。
手を、伸ばして。
あそこだけが、明るい。
あの場に佇むユノは、なんて明るいのだろう。
あの光を浴びる彼は、やっぱり王様なのだ。
王様、なんだ。