亡國の孤城Ⅱ ~デイファレト・無人の玉座~
目線の先。
彼を真上から照らす、天からの月明かり。
唯一の光。
明るい。
明るい。
惚れ惚れする程の、その淡く美しい光柱は友を優しく照らしている筈なのに。
何処からともなく襲ってきた視界を覆う眩しさに、レトは思わず目を暝った。
「………?」
…眩しい?ここは薄暗い筈なのに。
もろに光の侵入を許してしまった両目を何度かしばたかせ、なんとか瞳を慣らせると、レトはゆっくりと瞼を開いた。
辺りは、やけに明るかった。
目前にちらつく自分の前髪や、ぼんやりと見える睫毛の影が、いつかの太陽の光を浴びた時の様に白く光って見えた。
……明るい。明る過ぎるくらいだ。ここにはランプは無い。蝋燭も、松明も、勿論太陽もある筈が無い。
暗闇に塗れている筈の足元を見下ろせば、さっきまでは見えなかった自分の足が、はっきりと見えた。否、足だけではない。全身が、はっきりと見える。
明るい。
…明るい?
何故だろう。
まるで、僕自身が光っているみたいで…。
僕が、照らされているみたいで。
…照らされて…。
―――…眩しさの根源が、真上からだと理解するや否や、レトは夜空が広がる天をゆっくりと見上げた。
視線を上げれば、先程襲ってきた青白い光が飛び込んできた。
月が見える。
一筋の、真っ直ぐな月明かりが。
「―――…何…で…?」
自分だけを、見下ろしていた。