亡國の孤城Ⅱ ~デイファレト・無人の玉座~
ついさっきまで玉座を照らしていた筈の月明かりは、まるで意思を持った生き物の様にゆっくりと移動し…。
レトの頭上で、それは何故か止まった。
…不可解な現象を目の当たりにし、レトは気味の悪さを感じて月明かりから抜け出すべく、恐る恐るといった様子で一歩後退した。
…だがその直後、一同は思わず息をのんだ。
まるでスポットライトの様な月明かりを避けたレトを、その光は、逃がすものかと言わんばかりについて来たのだ。
「………っ…何…?………何…これ…」
後ろに下がっても、また一歩下がっても、天から降り注ぐ光は、レトを追って彼を照らし続けた。
…ついて来る?
どうして……どうして、こんな。
「………あんた…まさか…」
その奇妙な光景を離れて見ていたドールは、驚愕の滲んだ声を漏らす。サリッサはただ、愕然としていた。
「……ドール…これ、どうなってるの………?………僕、何もしてない…………………何で…?」
追い掛けてくる光が、眩しい。どうすればいいのか分からず、半ば混乱しきったレトは助けを求めるかの様にノアに顔を向けた。
美しい緑の瞳と視線が交わった途端………ノアは、いきなりその細い手で……レトを指差した。
やけに鋭いノアの眼光と突き付けられた指先に、レトはビクリと身体を震わせたが、頭上の月明かりとノアを交互に見詰めながら、泣きそうな表情で口を開いた。
「……ねぇ、ノア……これ、何?………この光…ついて来る………………僕、何かしたのかな……?」
「―――………です」
「………え…?………何…?」
よく聞こえない、と聞き返したレトに………ノアは、今度ははっきりと………言の歯を紡いだ。
「貴方だからです、レト」