亡國の孤城Ⅱ ~デイファレト・無人の玉座~
―――。
―――違う
違う違う
ちがう。
チガウ。
「―――…ノア………何…言ってるの……?……………僕……僕は………違うよ…」
ようやく絞り出した自分の声は、酷く震えていた。
頭上から追ってくる淡い月明かりがより眩しく感じて……さっきまであんなに綺麗だと見上げていたそれも、今は無性に煩わしく思えた。
纏わり付く光が、身の毛もよだつ程に嫌いになっている自分がいた。
羽織ったマントの裾を両手でギュッと握り締め、レトはまた少しずつその場から後ずさる。この身を照らす青白い眩しさは変わらず追い掛けてくるが、そんなことはもう…どうでもよかった。
鋭く、しかし何処か悲しげに細められたノアの真っ直ぐな眼差しが、逃げないでと言わんばかりにレトの意識を深く射止める。
これは、何かの間違いだ。
そうでなければ、自分はまだきっと………夢を見ているのだ。
質の悪い、夢を。
「………………違…う…」
「真実です、レトバルディア」
「………違う…違うよ」
「その光はアレスの誘い。貴方が召されている証です」
「…違う…違う……違う」
「違いません。レトバルディア、貴方なのです」
「……違うっ…………僕じゃない………僕は王なんかじゃない…僕は…違う…違う…っ!」
「王となられるお方です。アレスが呼んでおります、レトバルディア」
「………僕……僕を…!」
「…レトバルディア」
「僕の名前を、呼ばないで!」
両手で耳を塞げば、もう何も聞こえない。聞かなくて済む。この夢も、すぐに覚める。
早く。
早く目を覚まして。
…誰か、助けて。
怖い。自分が怖い。全部が怖くて仕方ない。
僕は、違う。
僕じゃない。僕は違う。
僕は。
僕は。
僕は、ちが…。