亡國の孤城Ⅱ ~デイファレト・無人の玉座~
「―――…何で、かなぁ…」
何も聞きたくない、と耳を塞いでいたレトの無音の世界に、その声だけは何故か…はっきりと、響き渡った。
耳にしたその小さな呟きは、すっかり聞き慣れた声だ。
胸中を渦巻く不安と混乱の混濁した感情が、急に勢いを失って波の様に引いていく。気持ちの悪い嫌悪感から不意に解放されたレトは、両手を下ろしながらぼんやりと……声の主に、揺れる視線を移した。
「―――………そう、だよね…そうなのに………何だか、おかしいよね」
レトの視線の先。薄暗い視界の中央。
そこには依然として佇む人影が、一つ。
見慣れた背中、切り揃えられた長く青い髪、何処からか吹き付けてくる冷たい風でたなびくマント。
玉座を前に微動だにしないまま、しかしポツリポツリと小さな呟き声を漏らす彼を……ユノを、レトは揺らぐ瞳で見詰める。
聞こえてくる友の声は妙に淡泊で、そこには何の感情も見られない様に思えたが。
「…うん…………おかしいね。…君の言う通り、違うのにね…………違うのにさ……………………冗談にも程があるよね」
徐々に、微かだが………その声は、何かを孕んでいった。
それが何なのかは分からない。だが、ユノの声は何故かレトに胸の痛みを覚えさせた。
…緊張している訳でもないのに、心臓が、高鳴る。
気持ちの悪い汗が流れる。背筋に、言いようの無い悪寒が走った。
…僕は、怯えているのだろうか?身体が震えている理由が分からない。
ユノを見て、友を見て、何故自分はこんなに不安になっているのだろう。
目頭が、熱いのだろう。
自分が、分からない。
そして彼も。
「………冗談だとしても………笑えないよね………笑えない」
「―――……ユノ?」