亡國の孤城Ⅱ ~デイファレト・無人の玉座~
その一匹を皮切りに、あちこちから獣達の来襲が始まった。
固く閉ざされた街の門には、ブロッディと思われるかなりの数の群れが次々に体当たりを繰り出していた。
今までびくともしなかった門が、鈍い衝撃音と共に小刻みに揺れるのを街の民はその時初めて目にした。
…頑丈な門が破られる事は無いとは思っていたが…耐久も、その自信も、時間の問題かもしれない。
真下で蠢くブロッディの群れに向かって、端に縄を付けた槍を勢いよく次々に投下した。
槍が命中しているかは分からないが、直後に聞こえてくる悲痛な鳴き声や、何より引き上げた槍の刃に付着した血から、多少なりともダメージを与えることは出来ている様だった。
外壁の他の箇所でも、登ってくる獣を槍で貫いたり、盾で押し返したりと抵抗を繰り返すが……一向にその数は減らない。
それどころか、増えている気がする。恐れを知らない獣の襲撃を前に、街の民はただひたすら、がむしゃらに剣を振った。
街と外の境界線である外壁を舞台に、殺気と狂気で騒然とする人間と獣の殺伐とした殺し合い。
舞台の地理は人間側が有利だ。果てしない作業だが、これならなんとか防ぎきる事が出来るかもしれない。
少なからず勝算があった街の民だったが…その内の一人が不意に上げた叫び声が、彼等のなけなしの余裕を削り取った。
「…上っ………上を見ろ!……怪鳥の群れだ!!」
一人が指差す方向、頭上を見上げれば、そこには月明かりを背景に夜空を旋回する鳥のシルエット。
恐らく、カーネリアン等の獰猛な肉食の怪鳥の類いだろう。
…この街は空からの襲撃に対応出来る策が無い。
思い掛けぬ来襲に、男達全員が苦々しげな表情で奥歯を噛み締めた。
…羽ばたく群れから一羽が外れ、そのままこちらに滑降してくるのが見えた。
翼を広げた巨体が、見る見る内に近付いてくる。
「…っ……!?来るぞ!!……弓だ!弓を使え!!」
「駄目だ!間に合わない!!」
情けない事に、飛び道具を用意していなかったのだ。…怪鳥の攻撃は凄まじい。一人や二人、簡単にその爪と嘴で裂いていくのだから。