亡國の孤城Ⅱ ~デイファレト・無人の玉座~
怪鳥から身を守るためには盾で頭上を覆って身構える必要がある。だが、そんなことをしていたらその隙に獣が侵入してしまう。
戦場は、考える暇を与えてくれない。
獲物を決めたらしい怪鳥が、翼をすぼめて空中で加速した。斜め上から真っ直ぐ飛んでくる、怪鳥のぎょろついた目玉に捉えられた男の一人が、犠牲は自分だけで充分だとでも言うかの様に、周囲の仲間達を強引に遠ざけた。
独り盾を構えるが、防ぎきる自信など無い。恐らく、あの爪でそのまま身体を持って行かれるだろう。
…だが、すんなりと殺られるつもりはない。人間は諦めが悪いのだから。
「………くそっ…!!」
迫り来る巨大なシルエット。
幾つもの獲物を狩ってきたその残忍な嘴が、月明かりに照らされて怪しく光るのが見えた。
寒空に轟く恐ろしい金切り声が、その場にいる全員の鼓膜を叩き付ける。
外壁から数メートルの距離にまで迫った時、男は自らを奮い立たせるかの様な叫びを上げた。
最後の、意地だ。
「……あああああ!!」
上手くいけば串刺しに出来るかもしれない。
片手に握り締めていた槍を持ち替え、思い切り振り上げた。
飢えに満ちた鳥の恐ろしい奇声が放たれたその、直後。
…真っ直ぐ飛来してきていた怪鳥の片翼の付け根辺りを、一筋の青白い閃光の様なものが、貫いた。
「…っ……!?」
突然の事態に、男は目を見開いたまま硬直した。
…男の手には、まだ槍が握られているのだ。
…ならばたった今、あの怪鳥の翼を付け根から吹き飛ばしたのは一体…?
…だが、困惑しきった男にそれ以上考える暇は与えられなかった。
…瞬間、背後から別人の手が勢いよく男の肩を掴み、強引に後ろに引っ張ったのだ。
そのまま後ろにのけ反り、尻餅を付いた男の眼前に………見知らぬ人影が一つ。
突然現れた、自分よりも小柄な赤の他人。
お前は誰だ?…という舌の上まで出かかっていた男の問い掛けは、一瞬こちらに振り返ってきた目の前の人物の一言で、遮られた。
「少し黙ってろよ」