亡國の孤城Ⅱ ~デイファレト・無人の玉座~
不機嫌そうなその声は、まだ幼い。よく見ればその顔立ちはまだまだ子供で…。

…少年、だった。

何処から現れたのか…少年は茫然とする男やその仲間達の前でマントを翻し、背負っていた大振りの剣を鞘から抜いた。

何かに貫かれ、今や皮一枚で繋がっているだけの片方の翼は上手く風を捉える事が出来ず、バランスを崩しながらそのまま突っ込んできた。

回転しながら飛んでくる巨体。
………衝突する、と思われたその、刹那。



少年の両手剣が、月明かりに反射して大きく弧を描いた。
洗練された流れる様な動作は、まるで水を裂く様に……怪鳥の身体を、真っ二つに切り裂いた。


割れた二つの肉塊は少年の両脇を通り過ぎ、雪や埃を舞散らしながら外壁の床に転がり落ちた。

数秒の間を置いて、新鮮な屍から大量の鮮血がほとばしる。






………開いた口が塞がらず、呆気に取られたままの男達の視線を浴びながら、少年は剣にこびりついた肉片を振り払った。

その後ろで未だに尻餅を付いていた男は、驚愕の表情を浮かべたまま少年を見詰めて、ポツリと呟いた。





「………か、狩人?」

「………」

応える様にこちらを再度振り返ってきた少年は、案の定…狩人だった。

古びた白いマントに、背中に抱えた剣。ちらちらと見えるマントの内に隠されたナイフや短剣。
何よりも、背中に背負う大きな青い弓の存在が、少年が狩人であることを証拠付けていた。………しかし狩人が何故?

…狩人の少年は何も言わず、不意に弓を手に取ると…素早い身のこなしで弓を構え、狩人特有の氷の矢を放った。

矢は目にも止まらぬ速さで街の民達の間を通り過ぎ…その直後、いつの間にやら外壁の外から登ってきていたブロッディの頭を跳ね飛ばした。


やけに静まり返ってしまった空気の中で、狩人の少年は口を開いた。



「―――……ボサッとするな!!…街、守るんだろう?………さっさと構えろ!言葉、通じてるだろ!!」


若干訛りのある狩人の言語だが、分からない訳ではない。
街の民はハッと我に返り、慌てて街の守りに入った。
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