亡國の孤城Ⅱ ~デイファレト・無人の玉座~
本当に、何故狩人がこんな所に?…と疑問は湧き出る一方だったが、考えている暇は無い。
夜空を見上げれば、数羽の怪鳥が一気にこちらに滑降してくるのが見えた。
だが、次の瞬間には、羽ばたく巨体のシルエットが真下から伸びてきた青白い閃光によって貫かれ、地に落下していった。
驚く面々を尻目に、急に数人の人影が外壁を軽々と登って現れた。獣の襲撃かと構えていた男達は、わっと声を上げて仰天しながら後退する。
…壁を登ってきたのは、狩人だった。
全身が返り血で赤く染まり、歩いた跡に血溜まりが出来ている。
「………狩人が…何故…?」
殺気立った狩人に恐る恐る声をかければ……その内の一人が勢いよく被っていたフードを外し…。
「つべこべ言わずに街を守れよ早く!!見れば分かるだろ!!助太刀に来てやってんの!!俺らの長老様の命令なの!!こっちを見るな!!俺を見るなよお前ら!!」
…と、無茶苦茶に喚き立てた狩人のまだ若い青年は、何故か…何故か、泣いていた。
お前は子供か、と突っ込まれてもおかしくないくらい、それはもうボロボロと、盛大に涙を流して嗚咽を漏らしていた。
鼻水を拭い、しかし泣き顔のまま、狩人の青年は「ああもう、くそっ!」と何やら悪態を吐いて弓を構えた。
瞬時に放たれた凍てついた矢が、数羽の怪鳥をまとめて串刺しにした。
…よく分からない青年の覇気に押される様に、街の民達は次々に戦意を取り戻していく。
戦闘の動きだけは機敏だが、一向に泣き止む気配の無い青年に…狩人の少年が背中合わせになって弓を構える。
「……アオイ…いい加減泣き止めよ…」
グズグズと鼻を啜る情けないアオイを見兼ねて、年下である筈の少年…ダンテが眉をひそめた。
この街に来る前からの道中も、アオイはずっとこんな調子だ。
「………うるさい!…うるさいぞダンテ!…そんなの俺の勝手だろうが!!………畜生…!何で…何、で………!」
片手で涙を拭いながらマントを翻し、指に引っ掛けたナイフを手中でクルクルと回して放り投げると、飛び掛かってきていた獣の眉間に突き刺さった。