亡國の孤城Ⅱ ~デイファレト・無人の玉座~
繰り出す刃物、矢を次々に的中させていくアオイは、空に向かって叫んだ。
「勝手に……勝手に死にやがって………!………ザイの糞野郎!!ダチの俺に黙って死ぬとか………………寂しいだろうがぁ!!あああムカつく!!」
「うるさい!!」
少し離れた所から、マナが怒声と共に雪の塊を投げてきた。
…だが、そんなマナもマナで心なしか目を潤ませ、どさくさに紛れて返り血と一緒に涙を拭っているのが見えた。
予想だにしていなかったザイの死は、長老直々の集合命令により狩人全員が集まった際に、神官の口から突然告げられた
…まさか、そんな。
…あのザイロングが。
神官が嘘を吐く筈がない。
恐らく、神官は十八番の千里眼でその事実を知ったのだろうが……事実でも、ザイの死は信じがたい事だった。
全員が動揺を隠し切れずにざわめく中、茫然と佇んでいたアオイは、周囲の視線など気にも留めずに号泣した。
『…彼は罪人であり、堕ちた屍弓だった。…それは変えられない真実だが……………戦士に相応しい、死に様だった。………皆の者、それだけは…覚えておいてやってくれ』
神官は穏やかな表情でそう告げた後、最後に長老の代理として全員に命じた。
―――“救国”といこうか、皆の者。
我らが主、長老は世の定めに抗いたいらしい。祈りの言葉なら今ここで終わらせて行け。…唱える隙など無いのだから。
神官の手が、天を指す。
老若男女問わず、その場にいる狩人全員が同時に跪き、静かにフードを深く被った。
この雪国に点在する大小の街に、弓を抱えた狩人の影が一斉に散った。
森や谷から群れをなして湧き出て来る獣を蹴散らしていくその光景は、一瞬で始まり、一瞬で終わる。
助けられる筋合いも無く、むしろ下等な民族であると虐げてきた彼等狩人の奇行に驚く街の民。
しかし、今はどうこう言っている場合ではない。
上級だの、下級など、関係無い。