亡國の孤城Ⅱ ~デイファレト・無人の玉座~
ノアが、仕掛けた。
目下の地上にあった眩しい光源が闇にのまれ、辺りは直ぐさま薄暗くなった。
これがノアの言っていた好機に繋がる仕掛けなのだとすれば、このまま上手く事が進めば、次に現れるのは結界が解けたユノの姿。
無防備と化したその一瞬を。僕は。
僕はこの矢を、放つだけ。
それだけ。
それで全部、終わりで…。
(―――)
矢羽と弦を支える右手にそっと力を加えれば…ずっと、ずっと握り締めていた小さく固い感触が、手の平に優しく食い込んだ。
何度も落としそうになったけれど、これだけは無くすまいと、ずっと握っていた。
これは……これだけは。
『…これはね、貝殻だよ』
『………カイガラ…?』
(―――僕の…)
―――カッ…と、雷の如きまばゆい光が、暗雲の中から溢れ出した。
獲物は何処だと標準を合わせるべく、反射的に構えるレト。
張り詰めた弦のキリキリと甲高い音色を耳にしながら、深い息を吐いた。
薄らいでいく真っ黒な嵐の向こうの彼に狙いを定めて。
彼の心臓を探して。
(……僕の…たった一つの…)
『…この片割れは、君のだ。……依頼人と狩人、じゃない。………友達っていう証だよ』
―――『君と僕の、証石』
―――…宝物。