亡國の孤城Ⅱ ~デイファレト・無人の玉座~
ふらりと、身体が大きく傾いた。
凄まじい脱力感と共に、一気に意識が遠退いていく不思議な感覚を覚えた。
それと同時にノアの回らぬ頭が呟いたのは…「失敗」という、青ざめた言葉だった。
そう、失敗したのだ。
目の前に立つ敵の身体は、あの忌ま忌ましい魔法陣が張り付いたままの、先程と何も変わらぬ姿だった。
結界は破れるどころか、少しも弱った気配も無い。
…ノアの魔術はほとんど、跳ね返されていた。
ユノの衣服や手足には幾つか小さな傷が刻まれており、多少フラフラと足元をふらつかせてはいるものの…結界が解けていないのであれば、意味が無い。
(…やはり、足りなかっ…)
悔しげに強固な敵を睨み付けるノアに、身を貫く激痛と痺れが牙を向いた。
気が付けば地に膝を突き、次に目を開けた時には、光り輝くそのシルエットを地べたから見上げていた。
相変わらず健在の赤い瞳の眼差しは、瞬きを繰り返しながら足元を泳いでいる。
あちらこちらに傾く小さな身体は、今にも倒れてしまいそうだが、すんでのところでバランスを保っていた。
結界は破れなかった。何も出来なかった。
もう、何も…。
瞼の重みに耐えながら、ノアはその先に広がる絶望を垣間見た気がした。
揺らぐ視界の真ん中で、憎らしい光の影が、フラフラと揺れる。
横に大きく傾いた身体は、重心を保とうと一歩だけ…踏み出した。
反動で靡く長い髪と細い手足。
ボロボロになった衣服の裾。
浅い傷口から零れ落ちる、赤い雫が一滴。
糸がほつれて脇に転がった、胸元の金色のボタン。
千切れた紐からスルリと抜け出した……小さな小さな、純白の淡い光を帯びた首飾り。
丸みを帯びた白の飾りが、軽快な音色と共に床を撥ねた。
二度、三度と転がって、それはようやく止まった。
凄まじい脱力感と共に、一気に意識が遠退いていく不思議な感覚を覚えた。
それと同時にノアの回らぬ頭が呟いたのは…「失敗」という、青ざめた言葉だった。
そう、失敗したのだ。
目の前に立つ敵の身体は、あの忌ま忌ましい魔法陣が張り付いたままの、先程と何も変わらぬ姿だった。
結界は破れるどころか、少しも弱った気配も無い。
…ノアの魔術はほとんど、跳ね返されていた。
ユノの衣服や手足には幾つか小さな傷が刻まれており、多少フラフラと足元をふらつかせてはいるものの…結界が解けていないのであれば、意味が無い。
(…やはり、足りなかっ…)
悔しげに強固な敵を睨み付けるノアに、身を貫く激痛と痺れが牙を向いた。
気が付けば地に膝を突き、次に目を開けた時には、光り輝くそのシルエットを地べたから見上げていた。
相変わらず健在の赤い瞳の眼差しは、瞬きを繰り返しながら足元を泳いでいる。
あちらこちらに傾く小さな身体は、今にも倒れてしまいそうだが、すんでのところでバランスを保っていた。
結界は破れなかった。何も出来なかった。
もう、何も…。
瞼の重みに耐えながら、ノアはその先に広がる絶望を垣間見た気がした。
揺らぐ視界の真ん中で、憎らしい光の影が、フラフラと揺れる。
横に大きく傾いた身体は、重心を保とうと一歩だけ…踏み出した。
反動で靡く長い髪と細い手足。
ボロボロになった衣服の裾。
浅い傷口から零れ落ちる、赤い雫が一滴。
糸がほつれて脇に転がった、胸元の金色のボタン。
千切れた紐からスルリと抜け出した……小さな小さな、純白の淡い光を帯びた首飾り。
丸みを帯びた白の飾りが、軽快な音色と共に床を撥ねた。
二度、三度と転がって、それはようやく止まった。