亡國の孤城Ⅱ ~デイファレト・無人の玉座~
映るもの全てを見ていなかった赤い瞳は、脇に転がり落ちた白く小さなそれにゆっくりと視線を移した。
凍てついた地面の真ん中で、小さく孤立する柔らかな白。
見逃してもおかしくないその断片を、赤い瞳はじっと見下ろした。
雪とは違う白色で。
手の平に収まるくらい小さくて。
丸くて薄っぺらで。
固いけれど、少し脆くて。
何の変哲も無い、ただの。
ただの、首飾りは。
「―――…あ」
表に晒された掠れた声は、しんと静まり返った謁見の間に響き渡った。
魔力に自我を支配された術者には、意識というものがもう無い。自ら動くことなど、有り得ない。その、筈なのに。
真っ白な貝殻の首飾りを、思わず拾おうと伸ばしたのは……何だったのだろうか。
落とした貝殻を拾い上げたその瞬間。
その小さな身体から、青白い魔法陣が一瞬にして…。
………消え失せた。
「―――…」
レトは、息をのんだ。
番えた矢の先には、彼がいた。
手にした貝殻の首飾りをじっと見下ろす彼が、そこにいた。
右手に握る片割れの貝殻が、また更に食い込んだ。
手元に注がれていた彼の視線が、不意に。
……レトを、捉えた。
手が、震えた。
魂が、震えた。
僕は…。
僕は一体。
こちらを見上げてくる彼の瞳は。
あの殺伐とした赤色ではなくて。
澄み切った、いつもの。
凍てついた地面の真ん中で、小さく孤立する柔らかな白。
見逃してもおかしくないその断片を、赤い瞳はじっと見下ろした。
雪とは違う白色で。
手の平に収まるくらい小さくて。
丸くて薄っぺらで。
固いけれど、少し脆くて。
何の変哲も無い、ただの。
ただの、首飾りは。
「―――…あ」
表に晒された掠れた声は、しんと静まり返った謁見の間に響き渡った。
魔力に自我を支配された術者には、意識というものがもう無い。自ら動くことなど、有り得ない。その、筈なのに。
真っ白な貝殻の首飾りを、思わず拾おうと伸ばしたのは……何だったのだろうか。
落とした貝殻を拾い上げたその瞬間。
その小さな身体から、青白い魔法陣が一瞬にして…。
………消え失せた。
「―――…」
レトは、息をのんだ。
番えた矢の先には、彼がいた。
手にした貝殻の首飾りをじっと見下ろす彼が、そこにいた。
右手に握る片割れの貝殻が、また更に食い込んだ。
手元に注がれていた彼の視線が、不意に。
……レトを、捉えた。
手が、震えた。
魂が、震えた。
僕は…。
僕は一体。
こちらを見上げてくる彼の瞳は。
あの殺伐とした赤色ではなくて。
澄み切った、いつもの。