亡國の孤城Ⅱ ~デイファレト・無人の玉座~
「……お、母…様……」
不意に我が子に呼ばれ、サリッサはビクリと身体を震わせた。
わななく口元を手で覆い、掻き消えてしまいそうなユノの声に耳を澄ませる。
「………レト…の…こと………恨…ん…だり……なんか……しないで…」
「………ユ…ノマリアン」
「……彼は…間違ってなんか……いないから……」
他に道は、あっただろうか。
僕に生きる道があったのだろうか。
…きっと、その道は幾つもあったに違いない。
でも僕は…そんな道、選ばない。
王になるために生きてきた僕にとって。
王になる以外の道は、道ではない。
僕の固い決心は、他人が理解出来る程、安易なものではないのだから。
「……僕の代わりに………王に、なるんだよ…レト……」
「………僕……僕は……だって…」
しゃくり上げながら鼻を啜るレトを、ユノは弱々しく睨み付けた。
ぎらぎらと光る彼の目にビクリと肩を震わせるや否や、ユノは低い声音で囁いた。
「……絶、対……ぜ……ったい…だから。………この、国を…守…る……り……立派な、王に……なるって………や、く…約、束…。……………生半…可……な、気持ち……で、王になる………なん…て…………………許さないから…っ…!!」
…ああ、痛い。
……凄く痛い。
死ぬって………痛いんだなぁ…。
こんなに痛くて、悲しくて。
「―――…痛い……………痛いよ……痛いよ…レト」
涙が浮かぶ朧げな視界に、声をあげまいと必死で堪える…酷い泣きべそをかいた親友の顔が見える。
……どうして、泣いているのさ。