亡國の孤城Ⅱ ~デイファレト・無人の玉座~
―――カッと、闇夜を照らす一本の光が天に向かって高々と伸びたのは、まだ夜が巣くう夜明け前だった。
青々と覆い茂った沈黙の森の向こう。
厚い雪化粧を施した山々の、そのまた更に向こう。
遠い何処かの地から昇る光の柱を、城の小窓からルウナは目を輝かせて眺めていた。
小さな人差し指で一本の閃光を差しながら、背後のアレクセイに興奮気味で喚き散らす。
「しゅごいすごい!!アレアレ、何あれ!!大きいね!!まぶひいね!…すごい遠いよ!!どこかにゃ?どこだりょ?」
忙しく跳ねるルウナの後ろで、アレクセイはその見覚えのある巨大な光を呆然と見詰めていた。
「………祝福の、光…?…しかしあの方角は……」
「まさかの、バリアンだね」
いつの間にか背後に佇んでいたダリルが、はしゃぐルウナを抱えながら淡々と述べた。
「………向こうも新しい王様誕生、おめでとうって言いたいところだけど………………新王は、これまたまさかの次男坊みたいだね…」
祝福の光から放たれる魔力から、誰が王になったのかダリルは理解していた。
驚くアレクセイを尻目に、ダリルは胸に抱えたルウナに笑いながら囁いた。
「ほら、ルウナ様…よく見ていて下さい。………あの光は、一つの時代の、終わりと始まりを意味しているんですから…」
「……母上も見てる?」
「勿論。……これから陛下は…もっと忙しくなりますよ…」
穏やかな吹雪の中で、ローアンは赤の国から昇った光の柱をじっと眺めていた。
予想だにしていなかったその光の出現に、自然と口元が孤を描く。
「………だから言っただろう、アレクセイ。……あの小僧は得体が知れないとな…」
ややこしい事が、始まる。
あちこちで。
世界で。
…何かが目覚めようとしている。
そしてそれは決して、良いものではないと本能が言っている。