亡國の孤城Ⅱ ~デイファレト・無人の玉座~
深く被ったフードでその面立ちは隠されて見えないが………明らかな、むき出しの敵意をヒシヒシと感じた。
こちらを見上げてくる刺す様な視線には、晴れない憎悪が渦巻いている。
「―――お前なんかに言われなくとも、入るわ。………触るんじゃないよ…」
ドスの利いた声はどこか幼く、そして甲高い。
見下ろすウルガから顔を背け、その人物はズカズカと謁見の間へ歩を進めた。
部屋に足を踏み入れた途端、部屋中にグルリと囲む兵士達が、鋭利な槍を構えた。
……そのか細い影に、黙ってウルガも続く。
……部屋の奥にある真っ赤な玉座。
謁見の間を高々と見下ろし、権力を主張するその座には………いるべき筈の主が不在だった。
代わりに、とばかりに、高い玉座のに続く階段に腰を下ろしていたのは………ニヤニヤと、見る者を不快にさせる笑みを浮かべた……変人。
側近のケインツェルが、膝の上で手遊びをしながら待ち構えていた。
包囲された人物は何の躊躇いも無く、ケインツェルに向かって歩き続ける。
二、三メートル手前まで来た途端、人影は立ち止まった。
正面のケインツェルに見向きもせず、空いた玉座や周囲をキョロキョロと見回し………フードの内の小さな口を開いた。
「………偉大なる王様は不在?……一人の客相手に………臆病な事…………………それとも、ついさっきポックリ逝っちゃったとか?…………冗談よ。………睨まないでくれる…?」
周囲から注がれる敵意に、殺意が混じり始めたことに、馬鹿馬鹿しいとでも言うかの様に苦笑した。