亡國の孤城Ⅱ ~デイファレト・無人の玉座~
「…あら。ならその『良い話』は、必然的に『良い訳がない話』になるわ。………ウチの長の…解放の話しか、あたしは聞きたくないわ」
ドールはパッと踵を返した。
―――直後、帰らせまいと、数十本の槍がドールに突き付けられる。
……呆れた、とドールは鼻で笑った。
「………ふん…そっちがその気なら……全然構わないのよ。………今直ぐにでも、大きな内紛を起こしてあげる。………長が……父上が捕らえられていなければ……こんな停戦状態、ぶっ壊してやるのに」
喉元に突き付けられた鋭利な刃の一つを、しなやかな人差し指の爪で、軽く弾いた。
「刺したら?………念の為言っておくけど………あたしか長が死ねば、それは内紛の始まり。………こっちはいつでも準備万端なのよ。その事、分かってるかしら…?」
悪政が続くバリアンには、王の政に反発する武装集団……反国家組織的なものが昔からあった。
それはこの国の民、全てと言っても良い。
全国土の砂漠化により、物資や食料の激減が起こったが………バリアン王は何もしなかった。
散々隣国への一方的な占領に、国民から強引に徴収した多額の金と人間を戦火で費した挙げ句………今度は数十年の沈黙。
………王を恨まない訳がなかった。
大きな内紛にまでは発展していないものの、いつ爆発してもおかしくない状態。
長年力を蓄えてきた、今や王にとって脅威であるとされる反国家組織は、最早目の上のたんこぶでは済まされない存在だった。
大きな内紛が、始まる。
………そんな緊張状態の最中。