亡國の孤城Ⅱ ~デイファレト・無人の玉座~
息子の後ろから、何か小さいのがヨチヨチと続いてやってくる。
………視界の隅で動くそれは、途中で転び、小さく一回転した。
レトはザイの前に倒れ込む様に膝を突き、ガクッと再びうなだれた。
「………………前に狩ったカーネリアンの卵が……孵っちゃった…」
……以前コム爺の依頼を受けた際に狩った、怪鳥カーネリアン。
雌のカーネリアンをかっさばいていた時に偶然見つけた卵。
青から真っ白になるまで熟させた卵は、それはそれはもう栄養価も高く、美味である高級食材として有名だった………のに。
「チチチチチチ!」
あんなに楽しみにしていた卵が、今は独りで立派に成長し、餌をくれと言わんばかりにレトの服の端を咥えて引っ張っていた。
そんなカーネリアンの雛と、極限まで落ち込む息子を交互に見ながら、ザイは年寄り臭い思い溜め息を吐いた。
「………………熟し過ぎだ。………卵の事……忘れていただろう…」
「………………………全然頭に無かった…」
「………」
荷袋にあんな大きな卵が入っていたのに………正直、本当に忘れていた。
その存在に気付いてもいなかった。
よく記憶を辿って行けば……思い当たる節は何度かあったのだ。
………度々遭遇する獣とのちょっとした戦闘で、無意識に荷袋で頭を殴り付けたりして怯ませていたのだが………怯ませるどころか、何故か即死することがあった。
………荷袋の中の卵を、レトは知らず知らずの内に、便利な鈍器として使っていたのだ。
と言うか、そんな事してよく割れなかったものだ。