亡國の孤城Ⅱ ~デイファレト・無人の玉座~
鈍器として役立っていた恐ろしくタフな卵は、毎夜毎夜、荷袋を抱えて眠るレトの体温でヌクヌクと温められ、それはもう順調に熟していき……………………………孵った。
カーネリアンの卵はなかなか孵らない事で有名なのだが、ちょっとした、偶発的な何かの間違いでいとも容易くあっさりと孵った。
レトは今日、カーネリアンの孵化率を何パーセントか上げた一人となった。
不本意ながら。
「………旨い、卵は無しだな」
やけに『旨い』を強調して呟くザイに、レトは絶望しきった顔を向けた。
「………………………………楽しみに、して、たのに………」
ダン、ダン…と力無く、拳で床を叩くレト。
そんな僅かな振動で、傍らにいる雛はリズムよく跳ね上がる。
ザイも何処か遠い目で壁を眺めながら、深い溜め息を吐いた。
「……………卵は諦めよう。………………代わりといっては何だが………鳥肉が、ある」
親子二人は揃ってじっと……小さな雛を見下した。
ご馳走を食い損ねて飢えた獣の瞳は、可愛らしい雛を色んな料理と重ねていた。
雛はそんなことなど知る由も無く、呑気にレトの指を甘噛みしている。
二人は食材を見下したまま、戦場の真ん中で合図し合う兵士の如く、静かに囁き合う。
「………………もう……焼いて良い…?」
「いや、待て。…………………気持ちは分かるが、抑えるんだレト。………これは小さ過ぎる。………もう少し大きくなってからの方が……お互い、腹が満足出来るというものだ……」
「………………また待つの…?………また忘れそう………」