亡國の孤城Ⅱ ~デイファレト・無人の玉座~
納屋から一歩出た先は、暗闇を背景に白く霞んだ一面銀世界。
街の中も外も、雪の量は大して変わらない。家屋があるか無いかという違いなだけだ。
…吹雪きの中にポツポツと、家屋から漏れ出る明かりが見える。
視界のあちこちで瞬く光を眺めながら………。
……ザイは、背中から巨大な剣を抜いた。
積雪に足をめり込ませ、体勢を低くし、片手で剣を構えた。
頬を撫で、睫毛に引っ掛かる雪など気にも止めず、獣の様な鋭い瞳で闇を睨んだ。
「―――………こそこそと。………わざわざ外に呼び出したのなら………この場に出て来たらどうだ…」
……気配など何も無い周囲。
しかしザイは、戦闘体勢を崩そうとはしなかった。
………。
月の無い、夜。
吹雪きの歌声しか無い筈の舞台。
他に役者はいない、静寂漂う景色の一点を………ザイはじっと、睨んでいた。
彼の目は、何物をも逃さない。
たとえ闇に紛れていても、臭いを消していても、息を殺していても……。
……無いに等しい存在感を、彼は捉える。
狩人の目は、そういう風に出来ているのだ。
数秒の間を置いて、ザイの視界の中央にある闇が………グラリと、揺らいだ。
「―――……気配は完璧に消していたってのに。………ザイ、あんたの五感は獣以上だよ……」
揺らいだ人影からは、男の低い溜め息混じりの声が聞こえてきた。
……スッと、ザイは構えを解いた。