亡國の孤城Ⅱ ~デイファレト・無人の玉座~
「………お前か。………………どうした……。…堂々と来ればいいものを……」
…この夜の暗がりで互いの顔は見えないが、声と雰囲気で誰かはすぐに分かった。
狩人は、あまり他人と関わりを持たないのだが、狩人の世界でも仲間と呼べる者が極僅かだが、存在する。
同郷の者だったり、同じ依頼で協力し合った者だったり………そういう縁がある人間が殆どだ。
情報がものを言う厳しいこの世界では、そういった仲間との情報交換は貴重である。
ザイの目の前に現れた男も、仲間と呼べる数少ない人間の一人だ。
……吹雪きにしか聞こえない指笛で、彼は納屋の外からザイを呼び出したのだった。
こうやってこそこそと呼び出したのも、狩人同士は干渉し合わないという暗黙のルールに従った行為だ。
「………こうやって会うのは二年振りだな。……ガキの方もでかくなったもんだな」
「………………尾行していたのか……」
「………怒るなよ。…………そうでもしないと、お前ら親子はすぐに消えちまうんでね……あんたに気付かれない様に動くのは至難の技だったよ…」
男は暗闇の中で笑みを漏らして言った。
「………………それで………尾行までしてわざわざ呼び出したのには………それなりの理由があるのだろう……」
辺りに目を凝らしながら、ザイは剣を背中の鞘に納めた。
男はくるりと背を向け、両手を腰に添えて息を吐いた。
「―――………コム爺さんからの、伝言だ」
「………」
「………いや、正しくは………」
…突風が、側を通り過ぎた。
「警告だ」