亡國の孤城Ⅱ ~デイファレト・無人の玉座~
暗がりでも映えるその緑色は、長い月日が経った今でも、色褪せる事無く輝いていた。
………エメラルドの首飾りが、骨と皮だけの震える指先に絡まり………ゆらゆらと目の前で揺れていた。
蝶の様に、鱗粉の如き光の粒を散らすそれは、いくら陽光に曝しても、闇に包んでも、秘めた輝きは変わらない。
変わらずに、そこにある。
………自分を、見詰めている。
……何処もかしこも締切った広い広い私室には、過去の栄光を思わせる金品の類いがずらりとひしめき合い………………………厚い埃を被っていた。
美しい装飾が施されている大きな椅子に、すっかり軽くなってしまった体重を掛けて、老王は俯いていた。
青黒い血管が浮かび上がった手の平には、老いを知らない永遠の宝石、エメラルド。
それを握ったり、転がしたり、じっと見詰めたり………。
そんな行動を意味も無く繰り返していたが、最終的に……老王は首飾りを正面の鏡に向かって投げ付けた。
ガンッ……と、平らな鏡に、固いエメラルドが勢いよく叩き付けられ、そのまま絨毯の敷き詰められた床に落下した。
……その乾いた音は、部屋中に響き渡った。
…ハッとした老王は、真っ青な顔を上げた。
杖など放って、慌てて………首飾りを手に取り、強く握り締めた。
床に膝を突き、前屈みになったまま………老王は、しわがれた声を漏らした。
「―――………テナ…………テナ……………テナ………すまない……痛くなかったか…?………すまない………」