亡國の孤城Ⅱ ~デイファレト・無人の玉座~









暗がりでも映えるその緑色は、長い月日が経った今でも、色褪せる事無く輝いていた。





………エメラルドの首飾りが、骨と皮だけの震える指先に絡まり………ゆらゆらと目の前で揺れていた。




蝶の様に、鱗粉の如き光の粒を散らすそれは、いくら陽光に曝しても、闇に包んでも、秘めた輝きは変わらない。

変わらずに、そこにある。












………自分を、見詰めている。














……何処もかしこも締切った広い広い私室には、過去の栄光を思わせる金品の類いがずらりとひしめき合い………………………厚い埃を被っていた。





美しい装飾が施されている大きな椅子に、すっかり軽くなってしまった体重を掛けて、老王は俯いていた。




青黒い血管が浮かび上がった手の平には、老いを知らない永遠の宝石、エメラルド。




それを握ったり、転がしたり、じっと見詰めたり………。







そんな行動を意味も無く繰り返していたが、最終的に……老王は首飾りを正面の鏡に向かって投げ付けた。





ガンッ……と、平らな鏡に、固いエメラルドが勢いよく叩き付けられ、そのまま絨毯の敷き詰められた床に落下した。







……その乾いた音は、部屋中に響き渡った。


…ハッとした老王は、真っ青な顔を上げた。


杖など放って、慌てて………首飾りを手に取り、強く握り締めた。





床に膝を突き、前屈みになったまま………老王は、しわがれた声を漏らした。

















「―――………テナ…………テナ……………テナ………すまない……痛くなかったか…?………すまない………」




< 213 / 1,521 >

この作品をシェア

pagetop