亡國の孤城Ⅱ ~デイファレト・無人の玉座~
そもそも精霊に赤ん坊なんてものがあるのか…とユノは思ったが、そこは流す事にした。
「チチ、チチチ」
二人を追い越し、アルバスはヨチヨチと階段を一段一段跳び上がって行く。
「………まだふらつく?」
確認する様に、レトは再度ユノに声を掛けた。
相変わらずぼんやりとしたレトの表情の先に続く、果てしない螺旋階段の暗がりには溜め息が出るが……ぐずぐずはしていられない。
結局、胸のざわめきは何なのか分からなかったが、今はすっかり無くなっていた。
「…大丈夫………」
そう答えて、差し延べられたレトの手を、そっと掴んだ。
……彼の手を染めている鮮血の赤は、もう気にしない事にした。
繋いだユノの手をしっかりと握り、レトは再び階段を上がり始めた。
「………………証石…」
「…え……?何だい?」
前を向いたまま不意に何やら呟いたレト。
聞き返したユノに、レトは振り返らずそのまま話を続けた。
…普段よりも無感情な、影のある声だった。
「………………僕らが引き継いだ証石の…依頼………だけど………」
「…うん」
「…………依頼内容は………この神声塔までの、君ら親子の護衛………だった…ね…」
「………」
………そうだ。
依頼内容は、護衛。神声塔まで…の。
「………………この塔の天辺に上れば……………僕ら…お別れだね…」
「………そうだね…」
何故だか、足取りは重く……そして、怖かった。
訪れるであろう、空虚が。