亡國の孤城Ⅱ ~デイファレト・無人の玉座~
「―――やはり、何も見えない…か。………どういう事かなこれは?」
………薄暗い室内。
至る所に金銀が埋め込まれた、豪華な装飾品や家具の数々も、視覚を支配する光が当たらなければ、何の見栄も張れない。
ジリジリと照りつく砂漠の陽光は、吹き抜けの窓から入り込もうにも、揺らめく一枚の生地に遮られ、室内には入れなかった。
暗がりだけが安住する、物静かな室内。
その中央には、薄汚れた巨大な鏡が起立していた。
その古い鏡を正面から見詰めるのは、四人の人影。
………いや、正しくは……二人の人間と、二人の魔の者の影が、静かに佇んでいた。
鮮やかな緑の髪の、二人の魔の者は、形は違うが……それぞれの魔石が埋められた杖を握り、揃って正面の鏡に伸ばしていた。
杖の先から漏れる、二つのぼんやりとした赤い光が滑らかな鏡の表面を包むが………鏡には特に何の変化も無く、ただ四つの人影の主をそのまま映しているだけだった。
何度繰り返しても、鏡には何も起きない。
「…………カイ一人だけで駄目なら……リイザのログの力も合わせて………と思ったのだが………………駄目だな……何も映らない…」
鏡に映る綺麗な自分の顔を見詰めながら、アイラは苦笑して言った。
そのすぐ背後に立つリイザは、相変わらずの無表情だったが…難しい顔で腕を組んでいた。
「それはそうと、リイザ。………もう知っているだろうけれど………父上がコソコソと進めている、デイファレトの王族の暗殺についてだが……私のカイがまた、君のログに意地悪をしたようだな」