亡國の孤城Ⅱ ~デイファレト・無人の玉座~
「………髪の毛一本も見当たらないなぁ………獣対策で臭いも全部消してるし……用心深過ぎる―…」
「静かにしろ………」
眉間にしわを寄せながら、リストは屈んで滑らかな純白の大地を睨んだ。
………本の僅か。僅かだが………足跡らしき、自然に出来たものとは思えない跡があった。
数ミリの凹凸、新しい雪と古い雪の層のずれ…。
とことん目を光らせて見れば、自ずとその違いが見えてくる。
………足跡は……大小と大きさが違う。
大きい方が……二つ…………小さい…子供の足跡が……………二つ………。
………………行方不明の王族は確か、母親と子供の親子だ。
………じゃあ、残りの大小二つは…狩人で…………こちらも………………………親子…か…?
もしくは赤の他人である狩人が二人………。
「…ねぇ、リスト」
「うるさい。……今話し掛けるな…」
「………あ、そう?……なら良いけど―…」
…何故か、含み笑いに聞こえたイブの声など気にも止めず、黙々と観察し続けるリストは、目線を地面に這わせたまま、屈んだ状態で神声塔の入口に少しずつ近寄って行った。
視界の隅に映る、物寂しげに口を開いた入口が、徐々に大きくなっていく。
(………?)
………何処を見ても白しか無かった積雪の大地にの中に、ポツンと………妙に映えるものが目に入った。
白の世界で孤立し、際立つそれは………一つの赤い、点。
まさに文字通り、紅一点の赤いそれは、まるで一滴の水滴が生地に落とされたかの様に、じんわりと積雪に染み込んでいる。
………血、だろうか。