亡國の孤城Ⅱ ~デイファレト・無人の玉座~

「………髪の毛一本も見当たらないなぁ………獣対策で臭いも全部消してるし……用心深過ぎる―…」

「静かにしろ………」

眉間にしわを寄せながら、リストは屈んで滑らかな純白の大地を睨んだ。

………本の僅か。僅かだが………足跡らしき、自然に出来たものとは思えない跡があった。

数ミリの凹凸、新しい雪と古い雪の層のずれ…。

とことん目を光らせて見れば、自ずとその違いが見えてくる。






………足跡は……大小と大きさが違う。

大きい方が……二つ…………小さい…子供の足跡が……………二つ………。







………………行方不明の王族は確か、母親と子供の親子だ。





………じゃあ、残りの大小二つは…狩人で…………こちらも………………………親子…か…?



もしくは赤の他人である狩人が二人………。





「…ねぇ、リスト」

「うるさい。……今話し掛けるな…」

「………あ、そう?……なら良いけど―…」


…何故か、含み笑いに聞こえたイブの声など気にも止めず、黙々と観察し続けるリストは、目線を地面に這わせたまま、屈んだ状態で神声塔の入口に少しずつ近寄って行った。


視界の隅に映る、物寂しげに口を開いた入口が、徐々に大きくなっていく。









(………?)



………何処を見ても白しか無かった積雪の大地にの中に、ポツンと………妙に映えるものが目に入った。





白の世界で孤立し、際立つそれは………一つの赤い、点。



まさに文字通り、紅一点の赤いそれは、まるで一滴の水滴が生地に落とされたかの様に、じんわりと積雪に染み込んでいる。





………血、だろうか。

< 387 / 1,521 >

この作品をシェア

pagetop