亡國の孤城Ⅱ ~デイファレト・無人の玉座~
「―――………幸せ……でした。………本当に……」
凍り付いた切り株に腰掛けたまま、この寒空の下でも元気よく積雪を走る、ほのぼのとした二人の子供の姿を眺めながら、サリッサは呟いた。
雪合戦をしているらしいレトとユノの二人だが、レトはやはりまだ雪合戦の楽しみというものが理解出来ていない様で、無表情で雪の塊をひたすら投げていた。
………ユノが足元を歩いていたアルバスをふざけて投げると、そこから事は飛躍し、いつの間にか雛の投げ合いと化した。
神声塔の姿が山々に隠れて見えなくなる程進んだ一行は、深い森の中でしばしの休憩をとっていた。
勝手に遊び出す我が子達を、二人の親はぼんやりと眺めていた。
「………………内密に婚儀を行って………恥ずかしながら…私はサリッサレム=エス、となりました。………住居は結局、そのマノン家となりました。………仕立て屋ではなく、今度は王族となってしまった私を迎えて………旦那様や奥様は複雑な顔をしていらっしゃいましたが…。………お嬢様のエリザベス様だけは、喜んで下さって………嫁がれた今でも、私の良き理解者なのです…」
「………………そんな事が…」
隣りで佇んでいたザイは、波瀾万丈なサリッサの過去を静かに聞いていた。
…突然の世間では有り得ない展開により、彼女の母は商人階級から王族まで上がってしまったのだが………彼女はやんわりと館に住む事を拒否し、今も街の外れの……さすがに借家ではないが古い小屋に一人で住んでいる。病気もなんとか治った彼女は、なかなか生き生きと生活している様だった。