亡國の孤城Ⅱ ~デイファレト・無人の玉座~
わしが何をしたのじゃ…と、いけしゃあしゃあとした台詞を被害者面でコムは呟く。
短気で血の気が多いというバリアン国民ではほぼ共通の性格により、兵士等の怒りはあっという間に頂点に達した。
「………っ…………………ジジイの分際で…!!」
先頭の男は今度は長い軍用の剣を抜き、壊れた煙管を未だ眺めているコムに向かって思い切り振り下ろした。
…男の剣は微動だにしない小柄な老人を真っ二つにするには、充分な重さと勢い、速さを兼ね備えていた。
………鋭利な白刃の光線は老人の頭上に真直ぐ伸び、そして………。
頭蓋骨を断つかという寸前。
………………綺麗な白刃は、ピタリと……………止められた。
指輪やら何やらの装飾品をジャラジャラ付けた、その、しわだらけの………指、二本で。
「―――っ…!?」
コム以外の全員が、目の前の異様な光景に目を見張った。
筋肉などすっかり削げてしまっている、血管の浮き出たひ弱な指先が………ガチガチと震える剣の刃を、苦も無く受け止めているではないか。
剣は指二本でがっちりと押さえられており、押しても引いても一向にびくともしない。
……鍛えられた兵士の攻撃を受け止めるどころか、その動きさえも封じてしまったこの老人のどこに、そんな力があるというのか。
必死に逃れようとする頭上の兵士の剣を見上げながら、コムはニヤリと意地の悪い笑みを浮かべた。
「………わしを斬るならば………もっと腕を磨いてこい……………………………青二才が…」