亡國の孤城Ⅱ ~デイファレト・無人の玉座~
「―――………何だよコム爺さん…この有様は」
小さいが活気のある、賑やかな繁華街から外れて奥の小道に入った辺鄙な場所に構えられたコムの店。
相変わらず人気の無い、その店の扉代わりの布を捲り上げ、店内の光景を目の当たりにしながら………とある客人は苦笑混じりに呟いた。
……所々破れた純白のマントに身を包んだ、二十代後半くらいの男。
短く淡い水色の髪に、漆黒の瞳。デイファレトの民特有の端整な顔立ちに、マントで覆われていても分かる、スラリとした引き締まった身体。
男は口笛を吹き、室内の中央で煙草をのんびりと吸っている………真っ赤に染まった店主を面白そうに眺めた。
目の前に広がる光景は………まさに、惨状だった。
小屋サイズのリアルな地獄絵図が、ここにはある。
何処に視線を移しても、赤、赤、赤、赤。
血腥い湿った空気と、他人の唾液と、よく分からない体液と、何処の部分か分からない肉片と、欠けた歯と…。
………まあとりあえず、過去に人間だったものが、だいぶバラバラになって転がっていたりへばり付いていたりする。
そんな静かな地獄絵図の中、肉塊と化した誰かの屍の上に腰掛けるコム。
彼がよく吸う癖のある臭いの煙草の煙が、鼻を突く。
コムは珍しい訪問者をぼんやりと見上げ、パイプの灰を足下にぶちまけた。
「………………何じゃ……アオイか。………………お前さんは妙な時に訪ねて来るのぉ…。何、気にするな。ちょいと一騒動あっただけじゃよ…」
「ハハハ。一騒動で終わらせるなよ…」