亡國の孤城Ⅱ ~デイファレト・無人の玉座~
アオイという名の男はそう言って店内に足を踏み入れた。
…一歩前へ出した右足の靴底から、プチッ…とか、何かジェル状のものを踏みつぶした音が聞こえたが、そこは気にしない事にした。
物珍しそうに散った屍を見下ろすアオイ。
……その中で彼の興味を引いた物が、広大な血溜まりの中に浸っていた。
粘着質な血が付着する事も厭わず、アオイは軽く屈んでそれを広い上げた。
……微笑を浮かべる彼の眼前にあるそれは……。
「………………ほっほーう……やっぱ、バリアンか…」
………逆さに燃える炎の紋章が刻まれた、刃こぼれの激しい剣。
…と、いうことは、今コムがイス代わりにしている折り重なった死体は………バリアン兵士達という事だ。
「………コム爺さんよ―……ちぃーっとばかし、まずいんじゃないの―?………………あっちの兵隊さんをこんな雑巾みたいにしちゃってさ…」
兵士の剣を再び血溜まりに落とし、アオイはニヤニヤ笑って言った。
「………カカカ…。………何を言っておる。………勝手に入ってきた挙げ句、我が物顔で威張り散らしておった無礼な輩じゃ。………これくらい、当たり前じゃろうて。………第一、お前さん達狩人も、こやつら兵士が何かと目障りなんじゃないのか?………一人や二人、当の昔に始末しておるじゃろう?」
「………まーな。……ざっと十人くらいは殺ったな―……。………奴等、見境無く襲って来るんでね。所謂、自己防衛ってやつさ。………俺以外の他の狩人も皆殺ってるよ」
…さらりと、バリアンからすれば重要な情報を平気で言うアオイ。
…なるほど。
数百もの兵士が何故王族を見付けられないのか、という謎には……そんな裏事情もあったからか。