亡國の孤城Ⅱ ~デイファレト・無人の玉座~
息子の頭を軽く小突き、ザイは再び前へ視線を移した。
レトのすぐ後ろから、不思議そうに瞬きを繰り返すユノが顔を覗かせた。
「…………あのさ……その、『嵐』って……何…?」
ユノにとっては何気ない素朴な疑問だったのだが、……デイファレトにいながら『嵐』を知らない人間がいたという事実に、ザイとレトは無言で驚いた。
「………王子は街の外に出た事が無いため……知らないのですな…」
「………………悪かったね、世間知らずのお坊ちゃまで」
ザイの言葉にムッと不機嫌な表情を浮かべるユノ。それに対し、レトはのんびりと説明しだした。
「………………えーとね……えー…………………この国の高い空は、凄く冷たくて強い風がグルグル回っててね……。…たまに風同士が絡まって……小さな渦が出来て………それが…突発的に大きくなって、上空に現れるんだ…」
……絡まって、絡まって………凄まじい風圧とマイナス百度を下回る風の渦が出来上がる。それは肉眼でもはっきりと見えるもので、その姿は例えるならば……上空にぽつんと孤立する、青白い竜巻。
それは上空で次第に肥大し、青白く光り始め………………ある一定の容量を越えた途端…。
「………バーンって………爆発しちゃうんだ。………『嵐』が大きい程威力は大きくて……上空から地上へ、物凄く冷たくて物凄く強い突風が吹いて来るんだ………」
『嵐』が爆発すると同時に、地上には氷点下の風が吹き荒れる。そのため、ここデイファレトの大地は凍て付いてしまっている。
「………その突風に巻き込まれたら、生き物はすぐに凍死しちゃうから………『嵐』が爆発する前に洞穴に隠れておかないといけないんだ……」