亡國の孤城Ⅱ ~デイファレト・無人の玉座~


…もうどうにでもなれ。

胸中で何度目か分からない半分自暴自棄に陥った溜め息を吐いた。

…すると、何処から取り出したのか王子はテーブルに横たわる二号の隣に、本物の蜂蜜の入った瓶を勢いよく置いた。

王子の輝く左目の琥珀色によく似た、透き通った蜂蜜だ。



……いつの間にか見張りさえも放棄し、余裕綽々で読書なんぞをしている毒舌青年の、「………割らないで下さいよ、ルウナ様。………ベタベタしますから…」という、呟き声が聞こえた気がした。




「これはね―、二号しゃんの大切な蜂蜜なの。絶対、絶対ね、取っちゃ駄目っだよ―!……そう言って、ミツバチは明日くまさんにあげりゅ蜂蜜を取りに行きました―!」


ビューン………と、ミツバチの縫いぐるみはテーブルの端に飛んで行く。

…そのまま放置してルウナだけが戻って来ると、満面の笑みの王子は蜂蜜の瓶を目の前に置いてきて……言った。







「それかりゃくまさんは………どうしましちゃか―?」

ニコニコしながら、使者のアドリブを待っている、らしい。…と言うか、ここからは本当にアドリブなのか。


「………おじしゃんはどうするの―?………ここからはね―、皆違うんだよ―!アレアレがやっても、リルリルがやっても、皆違うの―!おじしゃんはどんなくまさんにするのかにゃ―?」

「………」




どうやらこの王子様、この熊とミツバチごっこをたくさんの人間にやらせているらしい…。人によって違う反応を見るのが好きな様だ。


………他の者がどんなアドリブをしたかは分からないが……さて、自分はどうしようか。


(………子供の教育として考えるならば……当たり障りの無い展開がいいのだが…)
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