亡國の孤城Ⅱ ~デイファレト・無人の玉座~
……固まる使者を前に、ルウナはニコニコしながらテーブルに身を乗り出してずいっと使者に近寄り、小声で囁いた。
片手は、蜂蜜の瓶を掴んで転がしている。
「………二号さんのお家に忍び込んで………どうするにょ―?…………………………………バリアンは、何をする積もりにゃの―?」
………耳元で聞こえて来る、可愛らしい囁き声。
何の悪意も感じられ無い様な無邪気なその声に、何故か………緊張が走った。
………何だろうか。この、何かを探ろうとしている様な、視線は。
こんな幼児相手に…何故自分は困惑しているのだろうか。
…そうだ、これはままごとという名の、単なるごっこ遊びではないか。
子供の遊戯ではないか。
幼稚で馬鹿馬鹿しい、何の意味も無い、無邪気な…。
「………入ってどうするの―?」
そう、無邪気な…。
「……入って、何するの?」
………無邪気な…。
「………何するの?」
「―――殺す?」
静かに、そっと添えられたその短文に、使者は思わず身を強張らせてのけ反った。
……ガタッ、と椅子が揺れる。
物音に気が付いたダリルが、一瞬本の頁からこちらに視線を移したが、すぐに戻っていった。
「………殺すんでしょ―?」
小さな王子は再度、笑顔のまま小声で言った。