亡國の孤城Ⅱ ~デイファレト・無人の玉座~
言い知れぬ焦りと恐怖故にか、使者は口を真一文字に閉じ、ひたすら沈黙を貫く。
顔色の悪い額には珠の如き汗が浮かび、膝の上に乗せている片手はブルブルと小刻みに震えていた。
………私は、何をこんなに狼狽している?
たかが子供相手に。
下らないガキの遊びに。
意味の無い、支離滅裂な幼児の言葉に。
…下らない。下らない。下らない下らない下らない。
殺すだと?何の事だ?何を言わせたい。
「………こ………殺す………など……そんな」
「ルウナね―、何でも分かるんだよ―!何でも!妖精さんが教えてくれりゅから、何でも分かるんだ―!………だから、そんな嘘吐かなくていいよ―。………………殺すんだね、皆。みーんな」
使者の言葉を遮って尚も話すルウナは、その赤と琥珀色の異なるオッドアイで、使者をじっと見詰めた。
……キラキラと輝く幼い瞳は、笑っていた。
無邪気に。
「二号さんもミツバチさんも、皆まとめて殺すんでしょ?殺すんでしょ?………………最初からそのつもりで、忍び込んだんでしょ?………ミツバチさんは、助けたいだけなんだよ?」
「………ですから………王子………………何の事で…」
何故かわなないてしまう口を開き、訳が分かりません…と訴える使者。王子の質問は何か、核心を突こうとしている様な………油断ならないもの。
………何を馬鹿な。
…こんな生まれて間もない無知な子供に………私は何を。
「こそこそするのは悪いけど、僕の国はね、助けたいだけなの。………でもバリアンは、こそこそして………殺すんでしょ?あわよくば僕の国も」