亡國の孤城Ⅱ ~デイファレト・無人の玉座~
この幼児は…。
この、無邪気な王子は。
我が国の策を……。
(……………知っ……て……!)
信じられないてでも言わんばかりに目を丸くして、真正面のルウナを凝視した。
天使に見紛う太陽の如き笑顔を浮かべて、この王子様は、蜂蜜の瓶をそっと手元に引き寄せた。
握っていたミツバチの縫いぐるみに視線を移し、椅子にきちんと座り直す。
「………本当に汚いのは、どっちだろーねぇ?………………ねぇ、おじしゃん…」
不意に呼ばれてビクリと身動ぎした使者にそう呟きながら………ミツバチの縫いぐるみをジャーン…と見せびらかす様に目の前に掲げ、ルウナは満面の笑みで言った。
「ハチさんだってね、くまさんが相手でも、刺す時は、刺すんだよ。………怒る時は、怒るんだよ。…………………………おじさん」
―――…数秒の間を置いて、大広間の扉からノックの音が聞こえてきた。
静かに入ってきたのは、気怠い様子のアレクセイ。
しわしわで血管の浮き出た手には、文の入った筒が握られていた。
…堅苦しい文を書くのは神経を使う。
溜め息混じりに室内に目をやると………テーブルで向かい合うルウナと使者、そして部屋の隅で読書をするダリルの姿があった。
ままごと…でもしていたのだろうが。………何故か、様子がおかしい。