亡國の孤城Ⅱ ~デイファレト・無人の玉座~
―――新月の時期に入ると、この雪国は一日中吹雪と化す。
幕の降りない舞台では真っ白な雪も風が舞い続け、夜更けになってもそれは変わらない。
厚い雲の向こうで輝いていた月明りは無く、時折現れる雲間に見える、小さな星明かりだけ。
この時期は、昼も夜も、真っ暗だ。
暗くて、冷たくて、静かで。
独りは、寂しすぎる。
そんな、一年で一番国中が凍て付いている時期。
…本の一瞬、居眠りでもしていたのだろうか。
…数分の間だけだったが、珍しく……真横に吹き渡る吹雪が、降り止んだ。
沈黙の空の下。
毎日が猛吹雪だったためか、ポロポロと花びらの様に舞い降りてくる粉雪がやけに可愛らしく、空が泣いているとか、馬鹿な事を思った。
額に降りた雪は、一瞬の冷たさと儚さを訴えて、消え失せた。
一つ深い息を吐くと、濃い純白の憂鬱な塊が、寒空の彼方に塗れていく。
………私の不安や、恐怖など………この空にしてみれば取るに足らないものなのだろう。
だが………あの吐息の様に、いとも容易く消えてしまうものではない。
ただただ、ぼんやりとその場に立ち尽くしていると………正面のみすぼらしい小屋の出入り口から、やや背骨が曲がった小柄な老人が現れた。
老人は無言でこちらを見上げ、無言で、筒状に巻いた汚ならしい羊皮紙の束を、投げて寄越してきた。
…男はそれを掴み取り、老人に儚げな苦笑を向けた。
「………後は、頼んだ……コム」